見比べたらPS版と異なる点が色々あったので、リマスター版を別記事で掲載しておきます。
全文引用(リマスター版より)
僕は、シモン先生から委ねられた
『ゲルモニーク聖典』の頁をめくった━
文章は古代神聖語で書かれていた。
だが、残念ながら、僕にはそれを解読する術がない。
ところどころに挿絵があるものの、内容はさっぱりだ。
さらに付け加えるならば経年劣化による破損が激しく、
文字の判別も難しい━
そのとき、慣れ親しんだ畏国(イヴァリース)語の文字が
僕の目に飛び込んできた。
ところどころに、畏国語による注釈が
書き加えられていたのだ。
文字の筆跡はどれも同じ、
つまり、同一人物によるものだ。
いったい誰が?━
わずかにインクの香りが残る記述があった。
触るとインクがわずかに滲む。
完全に乾いていないようだ。
つまり、これは数日前に書かれたということになる━
おそらく、シモン先生に違いない━
この地下書庫の管理者であるシモン先生が、
十数年の歳月をかけて
少しずつ、少しずつ解読していたのだ━
断片的な注釈を頼りに読み進めてみた━
どうやらこの本は聖アジョラの弟子のひとり、
ゲルモニークが書き記したものらしい━
ゲルモニークとは人の名だったのか。
そういえば、どこかで聞いたことがある。
たしか、歴史の授業で習ったはずだ━
そうだ、思い出した!
ゲルモニークといえば、師である聖アジョラを裏切り、
神聖ユードラ帝国に聖アジョラを売り渡した
“裏切りの使徒”として悪名を残した人物!
この書物はゲルモニークが書き記したもの━
こんな歴史的遺産とでもいうべき
貴重なものがこの世に残っていたなんて!
━━聖アジョラは、混乱した人間界を救うために
神の国より遣わされた“神の御子”である。
聖アジョラは預言者として神の教えを説いた。
死後、古代神聖語で“神に従う”を意味する
“グレバドス”という言葉を冠した宗教となり
今では畏国をはじめ、鴎国(オルダリーア)や
呂国(ロマンダ)など広く信仰されるようになった━━
僕らが学んだ聖アジョラの物語を、
その軌跡をもう少し紐解こう━━
今から約千二百年前━━
何艘、何隻もの飛空艇が大空に浮かび、
その天空を埋め尽くしていた黄金の時代のことだ━━
ルザリアのベルべニアに生まれた聖アジョラは
生まれるとすぐに立ち上がり井戸まで歩くと、
「この井戸にはもうすぐ災いがふりかかる。
今のうちに封印し、
人が飲まぬようにしなければならない」
と警告した━━
数日後、ベルべニアを黒死病が襲った━━
井戸水を飲んだ人々は次々に病に倒れて。
しかし、聖アジョラの言葉を信じた家族だけは
病にかからずに生き延びることができた。
以後、聖アジョラは❝奇跡の子❞、
❝神の御子❞と崇められることになった━━
そんな聖アジョラが
天に召されたのは、二十歳の時だ━━
聖アジョラの死には
イヴァリースに古くから伝わる
“ゾディアックブレイブ”の伝説が関係する。
聖石の勇者たちの物語はさらに古い━━
畏国が現在のように統一される以前、
この地はゼルテニア、フォバハム、ルザリア、
ライオネル、ランベリー、ガリオンヌ、
ミュロンドの、計7つの小国に分かれていた。
それぞれ国家はその版図を広げようと、
いつ終わるともしれない争いを続けていた。
数百年続く争いの中、ミュロンドに
ひとりの野心溢れる若き王が誕生した。
若き王はイヴァリース全土を手中に収めるべく
大軍を率いて戦ったが、
勝利への道は険しく厳しかった━━
そこで、王は古文書より解読した秘法を用いて
魔界より魔神を召喚し、その力を利用しようとした。
しかし、地上に降臨した魔神たちは
勇者は魔神に対抗すべく、十二人の使途と共に
世界に散らばった❝ゾディアックストーン❞を集め、
ゾディアックブレイブを結成した。
彼らは瞬く間に配下の悪魔たちを倒すと
ついに魔神を魔界へ戻すことに成功した。
聖石の勇者たちは、その後も危機が訪れると
忽然と姿を現し世界を救うと消えていったという。
聖アジョラの生きていた時代にも似た危機が訪れた━━
イヴァリースの覇権を狙うランベリーの領主が
魔神を召喚し世界を混乱に陥れたのだ。
聖アジョラは伝説と同様に十二個の聖石を集め
“ゾディアックブレイブ”を結成し、
悪しき魔神を倒したという。
こうして、聖アジョラは“救世主”となった。
しかし、いつの世も執政者にとって
❝英雄❞ほど邪魔な存在はいない━━
聖アジョラの台頭を恐れた神聖ユードラ帝国は
その一派を捕えるために挙兵した。
また、民衆に広く信仰されていたファラ教の
司祭たちもまた聖アジョラの影響力を恐れた━━
結果、金銭に目のくらんだ十三番目の使徒
ゲルモニークの密告により、聖アジョラは捕えられ
ゴルゴラルダ処刑場で処刑されたのだ━━
しかし、聖アジョラは❝神の御子❞である━━
彼の処刑は、神の逆鱗に触れた。
処刑の直後、帝都にしてファラ教の本拠地、
ミュロンドを天変地異が襲った。
血の雨と金色の雷をまとった嵐が都を包むと、
さらに激しい地震が大地を揺さぶった━━
こうして、ミュロンドは轟音と共に海中へ沈んだ━━
ここまでが僕の知っている━━
いや、畏国に住む者ならば
誰もが知っている聖アジョラの❝神話❞だ━━
だが、この「ゲルモニーク聖典」に記された
聖アジョラはまったくの別人であった━━
アジョラは❝神の御子❞などではなかった。
僕たちと同じ、“ただの人間”だった━━
それどころか、彼は平和を愛し、他人のために
命を賭して戦うような勇者ではなかった。
野望を抱き、己が夢の実現のために戦う
“革命家”だったのだ━━
ゲルモニークの記録によるとこうだ━━
新興宗教の教祖だったアジョラは、
帝国にとってはただの厄介者でしかなかった。
その支配を憂える貧困層や奴隷たちにとって
平等な扱いと公平な機会の獲得を説く
アジョラはまさに“救世主”に映った━━
だが、アジョラはそうした宗教家とは異なる
“別の顔”を持っていた━━
それは、情報収集と攪乱を行う工作員━━
アジョラは敵国の間諜だった。
アジョラの教義、信仰、影響力━━
すべては帝国を内部から崩壊させるために
アジョラが用意した計略だったというわけだ。
帝国もアジョラを危険人物としてマークした。
敵国の間諜であるという証拠を掴むために
ゲルモニークを彼のもとに送り込んだ。
そう━━、ゲルモニークもまた、
アジョラの動向とその正体を探るために
帝国から送り込まれた工作員だったのだ。
アジョラが“ゾディアックブレイブ”を
結成しようとしていたのは事実らしい。
実際にいくつかの聖石を手に入れ、
アジョラが信頼する信徒たちに渡したことを
ゲルモニークが記述している。
当時のランベリー領主が本当に魔神を
召喚したのかどうか、それはわからない。
少なくともこの本にはそうした記録が
1行たりとも記述されていないようだ━━
シモン先生も疑問として書き留めている。
ただ、アジョラの処刑とほぼ同時期に
ミュロンドの大半が海中に没したのは事実らしい。
ここで、僕は注釈とは別の、おそらくシモン先生の
個人的な考えであろう記述に興味を引かれた━━
「これまで、
その存在が語られていたにもかかわらず、
誰の目にも触れることのなかった
幻の書『ゲルモニーク聖典』━━
この本が真実を語っているのか、
それとも聖アジョラの偉業を貶めるために
捏造されたのか、その真偽を私は知っている━━」
「私がかつて異端審問官として教会の政務に
従事していた際、教会の中枢にいる者たちは
この本が世に出ることを恐れていた。
それは教皇も同じ思いであっただろう。
何故ならば、この本が語っていることは
すべて“真実”だったからである━━」
「逆にいえば、アジョラの死後、彼の偉業を利用し
権力を手にしてきた教会がなさねばならぬことは
ただひとつ、聖アジョラを神格化し、
神と一体化させることであった。
それには都合の悪い点を歴史に残してはならない。
聖アジョラは“神の御子”でなければならないのだ」
「そのために、この地で広く信じられている
ゾディアックブレイブの伝説を利用したのは
賢い手段であった。
存在などしない魔神を倒したのは、
聖アジョラ率いるゾディアックブレイブだと
民衆に信じ込ませることは簡単だ━━」
「この本を手にした時、
私は信仰を失っていることに気付いた━━
だが、悲しくはなかった━━
何故なら、真実を追求しようとする好奇心が
すでに私の心を支配していたからだ。
と同時に、私は咎人であることを
自覚せざるをえないことも理解した━━」
「教会が長年、真相を隠し、
民に嘘をついていることは罪だ。
私はそれを糾弾しなければならない━━
だが、それは絶対にできない━━
もし、私がこの本を世に出したとしても
協会はそれをすんなりと認めたりはしまい。
それどころか私は異端審問にかけられ、
火刑に処されるかもしれない。
だが、それができない理由ではない━━」
「私にとってこの書庫はすべてだ。
私の知識欲を満足させるこの書庫は
求めていた至高の宝そのもの━━
だが、真相を暴くことで私はこの書庫を
取り上げられてしまうに違いない━━
それだけは避けなければ━━
私の知識欲を満足させるこの書庫を
手放すことは絶対にできないのだ。
私は、私の好奇心に負けたのである━━」
教会が長年隠匿してきた真実を記した本━━
聖アジョラにまつわる“奇跡”は偽りであり、
アジョラはひとりの人間にすぎなかった。
信徒たちは彼の死を利用し、
生前に説いた教義を都合の良い形で改竄、
自分たちの利権のために活用した━━
━━だが、それだけなのか?
シモン先生は「存在しない魔神」と書き残していた。
だが、聖石の邪悪な力を目の当たりにした僕は
教皇の企みとは別の誰か━━
さらに邪な思惑をそこに感じていた━━

コメント