FFTで読めるサウンドノベルの一つ。聖アジョラの弟子ゲルモニークが書いた本書は教会の不正を暴くカギとなるアイテム。作中でラムザの手元にある時期のみ読むことができる。
読み方
ゲルモニーク聖典は3章オーボンヌ修道院でシモン先生からラムザに託されます。ブレイブストーリーの財宝を選択すると中身を読むことができます。シナリオが進むと読めなくなるので、読みたい人は受け取ったらすぐ読んでおきましょう。
作中でのゲルモニーク聖典の意義
聖アジョラはかつて聖石を集めゾディアックブレイブを復活させて世界を救ったと言われている。権力闘争を制するためにその伝説を利用しようとしているのが、現在のグレバドス教会である。教会は聖石を集めて新生ゾディアックブレイブを作ろうとしている。
しかし、ゲルモニーク聖典に書かれた内容は聖アジョラ伝説を否定するものであり、教会によって神格化される前の「実際の人間としてのアジョラ」の姿が描かれている。本書の内容が「真実」であるかは分からないが、敬虔なグレバドス教信者であったシモン先生が「教会の不正を暴くことができる」と言い切ることから、本書のもつ影響力は無視できないものと言える。
現に、教会側は誘拐したアルマ(ラムザの妹)の交換材料としてラムザの持つゲルモニーク聖典を要求している。この点から考えても教会にとって世に出ると非常に都合の悪い書物であることは想像に難くない。
プレイヤーにとっての意義
ゲルモニーク聖典は別に読まなくてもゲーム進行に影響はしない。
マラークから読んだかどうか質問されるシーンがあるが、選択肢によってセリフが多少変わるくらいでその後の展開が変わることはない。
ゲルモニーク聖典が「実はプレイヤーが読めるものである」ことを示唆するための問答ではないかと思う。
ゲーム的に特にメリットはないが、FFTのストーリーや世界観をより深く理解するためには非常に重要な書物である。主に次の3点が興味深かった。
①ラムザの語りを通じて「ゾディアックブレイブの伝説」「聖アジョラ伝説」の詳細が分かる。
②人間としてのアジョラの姿が描かれており、それは聖アジョラ伝説とは異なるものであることが分かる。
③本書を解読していたシモン先生のことが分かる。
①これらの伝説の簡単な内容については、ドラクロワ枢機卿との接見時にオヴェリアのセリフから分かるが、本書ではラムザの語りによって、より詳細な内容が語られている。これにより「イヴァリースで一般的に信じられている」グレバドス教会の存立基盤が分かる。
②教会がゲルモニーク聖典の内容を危険視する理由として、聖アジョラ伝説が教会による事実の歪曲であることがある。では、実在したアジョラとはどんな人物だったのか。ゲルモニークから見たアジョラとしてそれが語られている。
③ストーリーの本筋とは関係ないが、本書を持っていたシモン先生がゲルモニーク聖典の解読に魅了されていたことが分かる。シモン先生の人間臭さが感じられて趣深い。
全文
いつでも内容を確認できるよう載せておきます。ゲーム内で読むと、文字の表示速度が変わったり、BGM付きで雰囲気が全く違うので未読の方は是非ゲームで読んでみてください。
…僕はシモン先生から委ねられた『ゲルモニーク聖典』を手にとりページをめくった…。
文章は古代神聖語で書かれている。ところどころに挿し絵があるが、中身の破損が激しく文字の判別も難しい。
いったいこの本には何が書かれているのだろうか?
そのとき、慣れ親しんだ畏国語の文字が僕の目に飛び込んできた。
ところどころに、畏国語による注釈が書き加えられていたのだ。
いったい誰が?
注釈に使われたインクからすると、古いものは十数年前、新しいものは数日前に書かれたようだ。指で触ってみると、少しにじむ。やはり、インクが完全に乾いていない。
文字の筆跡は同一人物。つまり、シモン先生が十数年の歳月をかけて少しずつ、少しずつ解読していたのだ。
…断片的な注釈を頼りに読み進めてみた。
…どうやらこの本は聖アジョラの弟子、ゲルモニークが書き記したものらしい…。
ゲルモニーク…?どこかで聞いたことがある…。歴史の授業で習ったはずだ…。
そうだ、思い出した。ゲルモニークといえば、師である聖アジョラを裏切り、神聖ユードラ帝国に聖アジョラを売り渡した裏切りの使徒…。
そのゲルモニークの書き記した書物がこの世に残っていたなんて、これはすごい!
…興奮する自分を抑えながら頁をめくる。
しかし、歴史的遺産を手にした興奮をはるかに上回るような衝撃が僕を襲った。
この本は、聖アジョラの語った言葉をゲルモニークがまとめただけのものと僕は考えていた。
しかし、その考えは甘かった。これは聖アジョラの活動の記録…、しかも、僕らが知っている聖アジョラとは違う一人の人間としてのアジョラの行動が記されていたのだ…。
そもそも聖アジョラは人間ではない。僕は兄・ザルバッグほど敬虔(けいけん)なグレバドス教信者ではないが、聖アジョラは、混乱した人間界を救おうと神の国より遣わされた❝神の御子❞であると信じている。
いや、信じていた…。そう…、この本を読むまでは…。
…かつて、何艘もの飛空艇が大空を飛び、天を埋め尽くしていた黄金の時代…。
ルザリアのベルべニアに生まれた聖アジョラは生まれるとすぐに立ち上がり井戸まで歩くと、
「この井戸にはもうすぐ災いがふりかかる。今のうちに封印し、人が飲まぬようにしなければならない。」
と予言したという…。
数日後、ベルべニアを黒死病が襲い、汚染された井戸水を飲んだ人々は次々に病に倒れて死んだ…。
しかし、聖アジョラの言葉を信じた家族だけは病にかからずに生き延びることができた。
以後、聖アジョラは❝奇跡の子❞❝神の御子❞と崇められることになった。
そんな聖アジョラが❝救世主❞となり、❝神の一員❞として天に召されることになったのは、ニ十歳のときだ…。
イヴァリースが現在のように統一される遥か昔、この地はゼルテニア、フォバハム、ライオネル、ランベリー、ルザリア、ガリオンヌ、ミュロンドの7つの小国に分かれており、それぞれ自国の版図を広げようと、いつ終わるともしれない争いを続けていた…。
数百年続いた争いの中、ミュロンドに一人の野心溢れる若き王が誕生した。
若き王はイヴァリース全土を手中に収めるべく大軍を率いて戦ったが、勝利への道は険しく厳しかった。
そこで、王は古文書より解読した秘法を用いて魔界より魔神を召喚し、その力を利用しようとした。しかし、地上に降臨した魔神は王を殺すと世界を滅ぼそうとした…。
勇者は魔神に対抗すべく、十二人の使途とともに世界に散らばった❝ゾディアックストーン❞を集め、ゾディアックブレイブを復活させた。
彼らはまたたくまに悪魔たちを倒すとついに魔神を魔界へ戻すことに成功した。
こうして彼らは❝世界の救世主❞となった。
ここまでが有名なゾディアックブレイブの伝説だ。
ゾディアックブレイブたちはその後も世界に危機が訪れるとそれに対抗すべく忽然と姿を現し、忽然と消えていった。
聖アジョラの生きていた時代にも似たような危機が訪れた。イヴァリースの覇権を狙うランベリーの王が魔神を召喚し世界を混乱に招いた。
聖アジョラは伝説と同様に十二個の聖石を集めるとゾディアックブレイブを結成し、魔神を他のしたのである。
どうでもいいが、「世界を混乱に招いた(原文そのまま)」は違和感。「世界を混乱に陥れた」か「世界に混乱を招いた」ではないか。
しかし、いつの世も執政者にとって❝英雄❞ほど邪魔な存在はいない…。
神の国の到来を説く聖アジョラの台頭を恐れた神聖ユードラ帝国はその一派を捕えるために挙兵した。
当時、もっとも大きな宗教であったファラ教の司祭たちは聖アジョラの力を恐れたのだ。
結局、金に目のくらんだ十三番目の使徒・ゲルモニークの密告によって聖アジョラは捕えられ、ゴルゴラルダ処刑場で処刑された。
しかし、聖アジョラは❝神の御子❞…、神の怒りがファラ教の司祭たちを襲った。
処刑の直後、ファラ教の本拠地ミュロンドは天変地異により海中に没したのである。
…こうして、聖アジョラは❝神の御子❞として天界に迎えられ、❝神の一員❞になったのである…。
ここまでが僕の知っている…
いや、畏国に住む者ならば誰もが知っている聖アジョラの❝神話❞だ。
だが、この『ゲルモニーク聖典』に書かれている聖アジョラはまったくの別人であった…。
アジョラは❝神の御子❞などではない。
僕たちと同じただの人間だ。
野望を抱き、おのが夢の実現のために戦った革命家なのである。
しかも、彼は平和を愛し、他人のために命を賭して戦うような勇者ではなかった。
…ゲルモニークの記したところによるとこうである。
新興宗教の教祖として信者を増やしていたアジョラは、当然のように、帝国にとってはただの厄介者でしかなかった。
しかし、アジョラはそうした宗教家としての❝顔❞だけではなかったようだ。
敵国に潜入し情報収集と攪乱を行う工作員。
帝国と敵対する国家の間者(スパイ)だったのだ。
とにかく、帝国はアジョラを恐れた。帝国はアジョラが間者である証拠を掴むためにゲルモニークを送り込んだ。
そう…、ゲルモニークもまた、アジョラの動向を探るために帝国から送り込まれた工作員だったのだ。
…アジョラがゾディアックブレイブを再結成しようとしていたのは事実らしい。
実際に聖石を数個、発見したことをゲルモニークは確認している。
だが、再結成に何の意味があるのか
若きランベリー王が本当に魔神を召喚したのかどうか、僕にはわからない…。
少なくともこの本にはそうした記録が1行たりとも記述されていないらしい。
ただし、アジョラの死とほぼ同時期にミュロンドを天変地異が襲い、ミュロンドの大半が海中に没したのは事実であった…。
ここで、僕は注釈とは別の、おそらくシモン先生の個人的な考えであろう記述に興味を引かれた…。
❝これまで、その存在が語られていたにも拘わらず、誰の目にも触れることのなかった幻の書『ゲルモニーク聖典』…。
この本が真実を語っているのか、それとも聖アジョラの偉業を貶めるために捏造されたのか、その真偽を私は知っている…。❞
❝私がかつて異端審問官として教会の仕事に従事していた際、多くの異端審問官たちはこの本が世に出ることを恐れていた。
それは教皇も同じ思いであっただろう。
なぜならば、この本が語っていることはすべて『真実』だからである…。❞
❝逆にいえば、聖アジョラの死後、彼の偉業を利用し権力を手にしてきた教会がなさねばならぬことはただ一つ、聖アジョラを神格化し、神と一体化させることであった。
それには都合の悪い点を歴史に残してはならない。聖アジョラは『神の御子』でなければならないのだ…。❞
❝そのために、畏国で幅広く信仰されているゾディアックブレイブの伝説を利用したのは賢い手段であった。
ありもしない魔神を倒したのは聖アジョラ率いるゾディアックブレイブだと民衆に信じ込ませることは簡単だ…。❞
❝私がこの本を手にしたとき、私は信仰を失ったことに気付いた。
だが、悲しくはない…。
何故なら、真実を追求しようとする好奇心がすでに私の心を支配していたからだ…。❞
❝だが、同時に私は罪も犯した。
教会が民衆に対して嘘を付いているにも拘わらず、それを糾弾する気が起きないからだ。
それは何故か?
もし、私がこの本を世に出したら、私はこの書庫を取り上げられてしまうだろう…。❞
❝私にとって、私の知識欲を満足させる書庫を取り上げられることほどの苦痛はない。
私は、私の好奇心に負けたのである…。❞
シモン先生は❝ありもしない魔神❞と語った…。
だが、聖石の邪悪な力を目の当たりにした僕は教皇の企みとは別の、邪悪な何者かの思惑を感じていた…。
シモン先生がこの本を隠していた理由が、「異端として教会から処刑されることを恐れて」ではなく、「書庫を取り上げられたくないから」というのが知識人の闇を感じさせる。
ゲルモニーク聖典の存在とそれを隠そうとする動きから、教会の権威もまた腐敗の上に成り立っていることが分かる。
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